ポッカリ月が出ましたら、
船を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
沖に出たらば暗いでせう、
櫂から滴垂る水の音は
昵懇しいものに聞こえませう、
—あなたの言葉の杜切れ間を。
月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接吻する時に
月は頭上にあるでせう。
あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言や、
洩らさず私は聴くでせう、
—けれど漕ぐ手はやめないで。
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
在りし日の歌
中原中也全詞歌集 下
(講談社文芸文庫)
「湖上」via tprr65.posterous.com
photo via flickr.com
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