2月18日の満月。東京の摩天楼が静かな海の底にあるように見える。

ポッカリ月が出ましたら、
船を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

沖に出たらば暗いでせう、
櫂から滴垂る水の音は
昵懇しいものに聞こえませう、
—あなたの言葉の杜切れ間を。

 

月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接吻する時に
月は頭上にあるでせう。

 

あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言や、
洩らさず私は聴くでせう、
—けれど漕ぐ手はやめないで。

 

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

 

在りし日の歌
中原中也全詞歌集 下
(講談社文芸文庫)

「湖上」via tprr65.posterous.com
photo via flickr.com

0 コメント:

人気の投稿

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...