愛の挨拶は、音符で綴られた恋文だった。ビートルズ世代だったらキャンプで白いギターを弾いて、好きな娘さんに気持ちを歌い聴かせたことがあるだろう。インターネット・ネイティヴの今だったら、YOUTUBEやUSTREAMで恋を打ち明け、ベッドインの世界配信も夢じゃ無い。
エドワード・エルガーは、1枚の楽譜を求愛のメッセージにした。それが《愛の挨拶》で、贈られた女性は“キャリス”。キャサリン=アリスの愛称で、エルガーの音楽の教え子だった。
この時点ではエルガーはまだ、作曲家として身を立てることは出来ていなかった。『自分に出来る仕事は何でもやった』と彼の回想録にあるように、生計はもっぱら作曲とは違うものでまかなえていた。田舎の町で暮らしながらもあしげくロンドンに出掛けては、新しい音楽に接することは怠らなかった。大作曲家となれたのは、そうした努力に寄るのでしょう。田舎での生活では困るほどの状況では無かったと思われます。
年上の女房は良い。とも言われます。エルガーの妻になる、キャサリン=アリスは9歳年上でした。彼女との結婚は転機のようにエルガーの作曲家への夢の扉を開きました。
エルガーの音楽は、意表を突くこと刺激的なことはしない。『音楽は優しく語りかけるもの』が作曲の信条であったと言います。作曲家として名を知られるようになっても、すぐに田舎に戻ってきてロンドンで暮らすことは無かったと言うことです。
ドイツからイギリスには音楽が無い。とまで悪口で言われていたようにヘンデル以来英国音楽と言える作曲家の空席をエルガーの登場で納めることが出来ました。
自然がわたしの歌を歌っているのか、わたしが自然の歌を歌っているのか。 - エドワード・エルガー
エルガーの音楽は穏やかながら、鬱に籠もるところは無く。華やかでも明るく暖かいだけでぎんぎんと迫ることは無い。年上の女房の胸で音楽創造の英気を得ていたのでしょうか、妻“キャリス”が亡くなると音楽の作曲は減ってしまいます。
エルガーの死後、その音楽はすぐに英国民の記憶から消え去り、ブリテンはエルガーの音楽を拒絶するところから登場します。エルガーがビートルズの音楽を聴いて、驚きはしても英国音楽を愁いたかは分かりませんが。
曲は《ヴァイオリン・ソナタ》のアンダンテ楽章。昭和10年に録音されたSP盤の第4面の後半部分。
- Violin Sonata, in E minor, op.82 Allegro ~ Romance - Andante ~ Allegro non troppo
- Albert Sammons, violin & William Murdoch, piano
- Recorded: 2 February 1935
- (Columbia LX 379-381 - matrices: CAX 7421-6)
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