夏の朝の夢 マーラー作曲 交響曲第3番を聴く  http://amzn.to/gMvYu8

マーラー

交響曲 第3番 ニ短調

《第3番》はマーラー(1860〜1911)が自作について言葉による説明を試みようとした最後の交響曲であり、初演の際には次のようなプログラムが聴衆に配られたといわれる。

 

『夏の朝の夢』


  1. 第1部 序奏、牧神(パーン)は目覚める
    1. 第1楽章 夏が行進してくる(バッカスの行進)
  2. 第2部 
    1. 第2楽章 野の花たちが私に語る こと
    2. 第3楽章 森の動物たちが私に語 ること
    3. 第4楽章 人間が私に語ること 
    4. 第5楽章 天使たちが私に語ること 
    5. 第6楽章 愛が私に語ること

 

後にすべて削除されたプログラムではあるが、少し前の版では、第1部の序奏に「岩山が私に語ること」という言葉もあり、各楽章の表題を一直線に関連づけるならば、まず岩山のように生命のない自然のなかに夏がやってきて、この世界に生命が呼び覚まされる(第1楽章)。そして植物が、ついで動物が活動しはじめ、語りだす(第2、第3楽章)。次にこの世界に登場してくるのは人 間だが、人間はこの世では癒されぬ苦痛や嘆きを抱え、苦悩する存在である(第4楽 章)。そこで人間は神と人との仲介者である天使に助けを求める(第5楽章)。最後には神の愛が人間を救済する(第6楽章)。生命のない物質から植物、動物、人間、天使、神へと楽章を追うごとに、より位階の高い存在物が登場してくる新プラトン主義的な「存在物の階梯」が意図されていたわけである。

けれども、さらに注目すべきなのは、常識的な理解では「神」やプラトニズムの不倶戴天の宿敵であるはずのニーチェの詩が第4楽章に採用され、しかもこの詩の唱える「永遠回帰」の思想が曲の形式そのものによって裏打ちされていると感じられることである。つまり、第1楽章では冬から夏への季節の移り行きが3度にわたって描かれるし、第6楽章は冒頭の主題が3度にわたって変形されつつ繰り返される複変奏曲だ。1890年代のドイツ語圏ではニーチェ・ブームが起こり、R. シュトラウスの《交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」》も1896年の作曲だが、この曲とニーチェ思想との結びつきを単なるブーム便乗以上のものと考 えるなら、「神の死」後の荒々しい森羅万象を描き尽くした巨大な「田園交響曲」として聴くことも不可能ではあるまい。

 

  • 第1楽章 力強く、決然と。4/4拍子 ニ短調。独創的なソナタ楽章で葬送行進曲風の冬の主題群と足どり軽やかな軍楽隊の奏でる夏の行進曲が交替する。ホルンの斉奏で 出る冒頭主題も夏の行進曲に乗って、変形されつつ展開されてゆく。冒頭主題には、ブラームスの《大学祝典序曲》にも使われたドイツの学生歌《われらは立派な校舎を建てた》やブラームスの《交響曲第1番》終楽章の「歓喜の主題」との類似も指摘されており、本楽章でのこの主題のパロディックな扱いからは、学生歌の含意する汎ゲルマン主義(裏を返せば反ユダヤ主義)や「保守派の巨頭」ブラームスに対するマーラーのアイロニーを読み取ることもできる。
      
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  • 第2楽章テンポ・ディ・メヌエット。3/4拍子 イ長調。
      
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  • 第3楽章コモド、スケルツァンド。2/4拍子 ハ短調。季節の移り変わりとともにカッコウが死んで、夏の歌い手がナイチンゲールに交代することを歌った歌曲《夏の交代》の主題によるスケルツォ。ここでも季節の推移とその永遠の繰り返しがテーマになっている。トリオでは「はるか遠くから」と指定されたポストホルンがあの世からの声のように響く。
      
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  • 第4楽章きわめてゆるやかに、ミステリオーソ。2/2拍子 ニ長調。アルト独唱が登場。主題的には第1楽章、冬の主題部と関連が深い。ここから終楽章までは切れ目なく続く。
      
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  • 第5楽章 活発な速度で、表情は大胆に。 4/4拍子 ヘ長調。さらに児童合唱と女声合唱が加わる。中間部のアルト独唱の歌いだしの旋律は第1楽章冒頭主題の変形。
      
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  • 第6楽章 ゆるやかに、平静に、感情をこめて。4/4拍子 ニ長調。マーラーが書いた最初の本格的な緩徐楽章。壮麗なアダージョ 主題は第1楽章冒頭主題のさらなる変形だが、特筆すべきは第1楽章の小結尾主題や第4楽章の「世界の嘆きは深い!」という旋律線に由来する苦痛の主題と呼ぶべきものが登場していることだ。声楽を動員しながら終楽章には使わないというのは大胆なアイデアだが、歌詞のある短い楽章は次の大きな楽章の縮図あるいは先取りであるという、前作の第4楽章《原光》以来のマーラーの常套手段を考えれば、同じニ長調の第4楽章の歌詞内容を器楽楽章として展開したものと見ることができる。苦痛の主題は繰り返しのたびに激しさを増してゆき、3度目の登場ではありったけの嘆きをぶつけるが、その後、フルートとピッコロの切れ切れの主題断片が金管合奏によるアダージョ主題、いわば快楽の主題の最後の変奏につながって、曲は大団円に導かれる。
      
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作曲年代:1895 〜 1896 年

初演:1902年6月9日、ケルン近郊のクレーフェルトにて。作曲者指揮、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団とクレーフェルト市立管弦楽団(合同)、オラトリオ協会女声合唱団、聖アンナ児童合唱団、ルイーゼ・ゲラー・ヴォルター(アルト)

 

楽器編成 :

  • フルート 4 (ピッコロ 4 )
  • オーボエ 4 (イングリッシュ・ホルン 1 )
  • クラリネット 4 (バス・クラリネット 1 )
  • Es クラリネット 2
  • ファゴット 4(コントラファゴット 1 )
  • ホルン 8
  • トランペット 4 (ポストホルン 1 )
  • トロンボーン 4
  • テューバ 1
  • ティンパニ 2
  • トライアングル
  • タンブリン
  • シンバ ル
  • タムタム
  • 小太鼓
  • シンバル付き大太鼓
  • グロッケンシュピール
  • むち
  • 鐘 4
  • ハープ 2
  • 弦楽
  • 児童合唱
  • 女声合唱
  • アルト・ソロ

 

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